
はじめに
マルチデンシティラインとは
マルチデンシティラインとは、一本のラインの中に
複数の異なる比重(デンシティ)を持つよう設計されたフライラインです。
単一の比重ではなく、セクションごとに異なる沈降特性を持たせることで、
より効果的な釣りを可能にします。
スペイフィッシングにおいて、このラインは水深や流速の変化に対応しながら
理想的なフライの動きを実現するための重要なツールとなっています。
スペイフィッシングにおけるラインの重要性
スペイフィッシングでは、ラインの選択と操作がその釣果を大きく左右します。
従来の単一デンシティラインでは対応できない複雑な水流や深度の変化に対して、
マルチデンシティラインは革命的な解決策を提供しています。
マルチデンシティラインの構造と種類
基本構造と設計思想
マルチデンシティラインは通常、ティップ部分から
順に異なる比重を持つセクションで構成されています。
典型的なデザインでは、水面に浮くフローティングセクションからスタートし、
中間部分はゆっくりと沈むインターミディエイト、
そしてティップ部分は速く沈むシンキングというように配置されています。
このデザインにより、キャスティングのパフォーマンスを保ちながら、
スウィング中の使いやすさや操作性を向上させることができます。
代表的なマルチデンシティラインの種類
市場には様々なタイプのマルチデンシティラインが存在します。
最も一般的なのはフローティングのボディにインターミディエイトの中間部があり、
その先がさらに比重が高くなる構成ですが、
他にもボディがインターミディエイトやさらに比重の高いものから始まり
先端に向けてさらに比重が高くなっているも、
さらには先端部分はインターチェンジャブル、
つまり、状況に合わせて様々な比重のシンクティップに
交換できるタイプなどがあります。
シンクレートの測定方法と表記
シンクレートは通常、1秒間に沈む距離をインチ(IPS:Inches Per Second)で表します。
例えば、Type 3は1秒間に3インチ沈むことを意味します。
製造メーカーによって表記方法が異なることもあり、
数字(Type 1-8)で表現される場合もあれば、
具体的なIPS値が記載される場合もあります。
シンキングライン表記 | 沈下速度(IPS) | 沈下速度(cm/秒) |
---|---|---|
S-1 / Type 1 | 1.0 – 2.0 | 約2.5 – 5.0 cm/s |
S-2 / Type 2 | 1.5 – 3.0 | 約3.8 – 7.6 cm/s |
S-3 / Type 3 | 2.5 – 4.0 | 約6.4 – 10.2 cm/s |
S-4 / Type 4 | 3.5 – 5.0 | 約8.9 – 12.7 cm/s |
S-5 / Type 5 | 4.5 – 6.0 | 約11.4 – 15.2 cm/s |
S-6 / Type 6 | 5.5 – 7.0 | 約14.0 – 17.8 cm/s |
S-7 / Type 7 | 6.5 – 8.0 | 約16.5 – 20.3 cm/s |
S-8 / Type 8 | 7.5 – 9.0 | 約19.1 – 22.9 cm/s |
シンクレートは水温や水質でも変化します。
例えば同じラインでも水温が高ければ水の比重は小さくなるため、
ラインのシンクレートは速くなり、
淡水よりも海水の方が水の比重が大きくなるため、
シンクレートは遅くなります。
つまり、同じラインでも、水温が高い時よりも低い時が、
また、淡水よりも海水の方が沈み方はそれぞれ遅くなります。
マルチデンシティラインの特徴
スウィング中の利点
マルチデンシティには様々なタイプがありますが、
大別すると、ボディの部分がフローティングのタイプと、
シンキングのものとに分けられると思います。
前者のタイプはシンクティップを、
後者はフルシンクのラインをそれぞれファインチューニングした
ものだといえます。
ぼくはフローティングボディのマルチデンシティラインを主に使用しています。
このタイプのラインは、ボディの部分が浮いているので
ラインの位置が確認できるため、その延長にあるフライの位置の
把握も容易で、フルシンクよりも使いやすいと考えるからです。
この特徴は、もちろん通常のシンクティップラインでも
同様のことは言えますが、
それよりもスムーズなカーブでラインを沈めることができます。
通常のシンクティップでは、ヒンジのように
ティップの継ぎ目から急角度で沈む形になりますが、
マルチデンシティではそれが緩やかな角度になります。
ぼくがこのような沈み方を好むのは、
ラインの形状がより直線に近いので、
感度が良くなるというのが理由の一つです。
水中のラインが直線に近い形になれば、
間にスラックがあまりないので、
感度が向上するのです。
魚のストライクはもちろん、
障害物にフライが触ったり、
木の葉など流下物に触るだけでも
時にも敏感に感じ取ることができます。
それから、フライの深度を保ちやすいというのが
もう一つの理由です。
ラインに加わるテンションが強くなると、
通常のシンクティップではフライは水面に向かって
浮き上がってきてしまいますが、
マルチデンシティではこのようなことは
起こりにくくなります。
よくあるケースでは、
スウィング中、ラインに強いテンションがかかると
通常のシンクティップでは
フライの深度は浅くなってしまいますが、
マルチデンシティではフライの深度を最後まで
保つことができるのです。
ただ、これは釣り場の地形によりどちらが
有効かということは変わります。
遠浅の地形では通常のシンクティップのように
地形に合わせてフライが浮き上がってくれた方が
手前までフライが根がかりすることなく釣ることができますが、
マルチデンシティでは途中で根がかりしてしまうので、
スウィングの途中でラインを回収して
キャストし直さなくてはなりません。
また、キャストする距離によって
使い分けるという考え方もあります。
キャストする距離が比較的近い場合には
通常のシンクティップにして、
そのティップは比重の高いものを使うと、
釣りの効率が良くなります。
キャストする距離が短いということは
スウィングさせる距離や時間も短くなります。
ですからキャスト直後に素早く沈め
短いスウィングで、素早いテンポで釣れる
シンクティップが効率が良いでしょう。
これはスカジットラインシステムの
基本的なコンセプトの1つでもあります。
反対にキャストする距離が長い場合には
スウィングする距離や時間は長くなります。
このような場合はマルチデンシティのライン
が向いています。
これにティップは通常のシンクティップよりも
低比重のものを使うのが良いでしょう。
スウィングの距離が長いので、
長い時間をかけて望みの水深まで
フライを沈めることができます。
また、沈む部分が長いので、
テンションがかかった時に浮き上がることが
少ないので、フライの深度を保ちやすく、
広い範囲を一度に探ることができます。
ですから、キャストする距離が比較的短く、
狭い流れの筋を素早く探っていく場合には
通常のシンクティップが、
距離が長く、広い範囲をフライの深度を保って
探るに時にはマルチデンシティが向いています。
また、後者の場合にはフルシンクのラインも向いています。
しかし、フルシンクのラインは当然のことながら
ラインはすべて沈んでいるため、その位置の把握は
ランニング部分の位置と方向で想像しなくてはなりません。
しかし、ボディがフローティングの
マルチシンクでしたら、フルシンクのように
広い範囲を探ることができるし、
ボディが浮いているので、ラインの位置や状態を
把握でき、それによりフライの位置やスウィングの
状態もより把握しやすいというメリットがあります。
それから全長にわたって同じシンクレートの
フルシンクのラインはその沈み方というか、
沈んだ時のラインの形状はラインの途中が
下に膨らむようなカーブを描きます。

シンクレートが同じなら
ラインは同じスピードで沈むのだから、
このようになるはずがないと思えますが、
実際にはこうなります。
それは、フライやリーダーと
ロッドがライン両端が抵抗となっているためです。
電柱にかかった電線を想像していただけば
分かりやすいでしょう。
このような状態でフライを流すと、
フライとのコンタクトが若干失われやすくなります。
つまりシンクティップとは別の意味で
感度が損なわれてしまうのです。
そのためには、沈んでいるラインの形状を
直線に近い形にする必要があります。
マルチデンシティは、その解決策の一つとなります。

マルチデンシティのラインには
ボディがフローティングのもの以外に
この部分もシンキングのものもありますので、
より深く沈めたい場合にはこのタイプのラインがお勧めです。
つまり、フローティングボディのマルチデンシティラインは
シンクティップとフルシンクの中間的な使い方ができ、
シンキングボディのタイプはフルシンクのように
よりフライの深度を長く保ってスウィングさせながら、
フルシンクよりもフライとのコンタクトを
より高度に保つことができます。
キャストにおける利点
キャストした時のループ形状は比重が変わらない
通常のフルシンクや、ここでは比較にあげていませんでしたが
フローティングのラインが最も安定して良い状態を保てます。
途中でラインの比重が高くなると、その部分のラインは
より速いスピードでターンしてしまい、
オーバーターン気味になってしまうのです。
これは途中で急に比重が変わるシンクティップが
最も極端にそれがあらわれます。

マルチデンシティは比重の変化が緩やかなので、
シンクティップよりはそれがマイルドになりますが、
やはりその傾向は残ります。
ラインはターンが完了したらそれ以上は
飛びませんので、当然のことながら
それは飛距離にも表れます。

なので、最も安定して飛距離が得られるのは
フルシンク、次にマルチデンシティ
そして、シンクティップはこの点において
最も不利だといえます。
まとめ
以上、本流でのスペイフィッシングにおける
マルチデンシティラインの特徴を、
やはり本流でよく使われるシンクティップや
フルシンクのラインとの対比でご説明しました。
マルチデンシティが万能というわけではなく、
それぞれ一長一短はあるのですが、
このタイプのラインを使うことで
ぼくのスペイフィッシングの在り方は
大きく変わったのは事実で、
今では最も多くのケースでこのラインを使っています。
ぜひあなたも一度お試しください!
お勧めのマルチデンシティライン
以下にぼくがお勧めするマルチデンシティラインを
いくつかご紹介しておきます。
ネクストキャスト
まずご紹介するのは、ネクストキャストのラインです。
サン・フランシスコで毎年開催されている
スペイキャストの競技、スペイ・オ・ラマでの優勝経験のある
サイモン・シェイがプロデュースしているブランドです。
その中で、ぼくがお勧めするマルチシンクラインは
ゾーンと、コアのシリーズです。
ゾーンはスカンジ・タイプのラインで、
そのなかでも2Ðは状況に合わせてティップを交換する
インターチェンジャブルタイプ、
3Ðはティップも一体型のタイプです。
コアのシリーズはスカジットライン。
用途に合わせて3種類の長さが用意されています。
ネクストキャストのラインは、デザイン・コンセプトがユニークで、
ゾーンはスカンジ、コアはスカジットということになってはいるのですが、
どちらもスカジット、スカンジの中間的な性格を有しており、
シングルスペイのようなエアボーンアンカーのスタイルでも、
スカジットのようなサステインドアンカーのタイプでも
どちらでも優れたパフォーマンスが得られます。
リオ
アメリカを代表する3大メーカーの1つ、
リオからも2種類のマルチデンシティラインが発売されています。
リオのマルチデンシティラインはネクストキャストよりも
さらに複雑で、ネクストキャストは2種類の比重+ティップという構成ですが、
リオのそれは3種類+ティップとなっています。
ゲームチェンジャーはネクストキャストのゾーンと同様、
スカンジながらスカジットの力強さも備えており、
ピックポケットの方はより純粋なスカジットラインとなっており、
ヘビーシンクティップやヘビーフライを最もキャストしやすい
デザインとなっています。
RIO Elite GameChanger Body
あらゆるキャスティングスタイルに対応し、
表層近くから非常に早い流れの底までのあらゆる深度において
スウィングをコントロールすることができる、
マルチデンシティのシンキング・シューティングヘッドです。